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至誠学舎立川 中長期基本計画

~新しい明日 新たなステージへ 2025年を目指して~

1、本計画策定の意義

 至誠学舎が創設100周年を迎えたのは2012年(平成24年)であった。その記念誌に発表された橋本論文、「至誠学舎100年を支えてきたもの ~福祉活動実践主体としての至誠学舎モデルの検証~」において、100年至誠学舎の実践した社会福祉事業の正当性が論証された。

 その要旨は至誠学舎の精神性を「まことの心」と捉え、それは移入理論ではなく、日本における社会福祉援助「ソーシャルワーク」の原点だと論述している。また経営主体の同族性の課題、地域に依拠した事業展開、近代的なマネジメントの重要性に触れ、最後に「伝統とは、変化に対応し、革新を重ねた結果のこと」としている。

 1998年の至誠学舎東京と至誠学舎立川の法人分割後、至誠学舎の理念を継承することを目的として両法人を繋ぐ組織として「至誠学舎福祉振興会」が置かれた。100周年の記念式典は振興会が中心となって開催された。その後特筆する事業は実施していないがそれぞれの法人においては特徴のある事業展開が進められている。今後共、社会福祉環境の大きな転換期に当たり、「至誠学舎」としての精神基盤を共有する法人としてのアイデンティティを確認する上でも交流、協力、情報の共有化等大切にしていくべきである。

 分割後、本法人においては着実にマネジメントの近代化が進められた。それは同族性の課題を克服し、創業者の理念を掲げ、社会福祉実践主体としての法人近代化の歩みであった。具体的には、①3事業本部制による柔軟な事業活動の確立、②事業本部間の資金調整の機能を持つ法人運営調整基金の充実、③理事長の専任化を担保し、責任性を明らかにする処遇の確立、④施設長、役員・監事の定年制の遵守、⑤専任法人事務局長の確保、⑥法人を統括する法人本部と研修センター棟の建設、⑦地域に向けた合同事業の取り組み等があげられる。

 

 また、法人100年の節目を超え、法人施設・事業運営の正確な評価を目的として、2011年度(平成23年)に正職員、契約職員全てを対象とした職員意識調査を実施した。そしてその結果を基礎資料として2013年(平成24年)1月には法人将来構想基本計画「新たな世代の羅針盤」を策定した。

 今回の法人中長期基本計画の策定は、この構想基本計画をベースとして2025年までの概ね10年間を目途にした「基本計画」として策定された。第Ⅰ部では各事業本部の計画の自主性を尊重しながら法人としての克服すべき課題と将来へ向けての方向性を示している。また第Ⅱ部においては3事業本部における中長期基本計画として事業実践現場としての将来の方向、在り方、計画を取りまとめている。

 21世紀に入り既に14年が経過した。20世紀末からの社会福祉の基礎構造改革を背景として、社会福祉事業にも契約型のサービス、市場原理が強調される時代となった。現在では経済の低迷期において地域全体に要援護者が拡大する社会情勢、同時に人口減少社会における福祉人材の確保が大きな課題となっている。

 福祉環境の激変は、非課税で公的支援を受けている社会福祉法人の経営、運営に対しての厳しい批判という現象を引き起こしている。制度を拠り所にしながらも地域社会との連携を保ちつつ、常に先駆的に地域社会のニーズに応える事業を展開してきた自負を持つ本法人としては、現在の社会からの厳しい批判には納得できない思いもある。

 しかしだからこそ本法人のあり方、事業活動、将来の事業の方向性を社会的に示す必要があると判断した。それらの批判に対して法人の反論、あるいは説明責任・アカウンタビリティを果たす証左として本計画策定は意味も持つものである。

 

 本法人が2025年に向け、凡そ10年のスパンでどのように事業を発展させ、社会的付託に応え、利用者支援と地域社会へ貢献をしていくのか、実践を基盤として真剣に検討した成果物がこの計画だといえる。

2、具体的な課題の整理

(1)マネジメント全般について

  • ○現在、問われるのは、当然社会的に「支援・援助」が必要な利用者への質の高い福祉サービスの実践である。
  • ○その実現のためには質の高い「人、場、財」、そして支える「仕組み」、すなわちマネジメントの確保である。
  • ○本法人の組織的、経営的な特徴は常務理事が理事長から委任を受け、事業領域別に実質的経営責任を持つ3事業本部制である。今後の法人の発展にとって、規模の拡大、地域の拡大、事業領域の拡大等を考えたときに、そのマネジメントの限界を常に認識し、適当な規模・範囲について状況と時代に応じた適切な判断が必要になってくる。
  • ○今後の法人事業の発展の方向として障害領域の事業は社会からの期待でもある。現在、障害者総合支援法による利用者サービスと性格づけられた障害領域の事業を、様々な就労支援、生活支援などの取り組みとして発展させる法人組織の適切なあり方の検討が必要である。
  • ○同様に法人としての社会的使命として、障害者の雇用も積極的に進めるべきである。
  • ○法人の今後10年程度の期間でどの程度の規模の発展を想定するかについては十分な論議は為されていないが、今の経営資源と体制ではその規模に限界があることは明らかである。一定の規模、たとえば年間事業費100億円を超える段階では、複数の経営主体を擁するホールディング性や、新法人の創設、暖簾わけ的な法人分割も視野に入ってくることが想定される。
  • ○急速に発展する組織にとって、目の前の事業の発展に気をとられ、法人としてのコントロールが機能せず(アウト・オブ・コントロール)、ガバナンスの危機を招かないような健全な組織と運営の仕組みが必須である。
  • ○自立性が強い事業本部の経営管理については法人本部による統制、また事業本部間の牽制機能が働くことがリスク管理となる。また創設者の理念を受け継ぐ親族が中心となって、事業の経営を担っている本法人の同族性のメリットとデメリットについて常に意識し、人事、組織、財務、事業の透明で近代的な健全性を担保していく不断の努力が求められる。
  • ○法人役員、施設長等の重要人事の選任については、常にバランスと経営管理能力を重要視し、客観的な検討を人事委員会で行い、役員会への適切な提案、また代表者としての理事長の誠実な補佐ができることが重要である。
  • ○事業現場の至誠学舎品質の担保、サービスの水準の一定の質的な保障を確保していく上で内部による検査、相互検証の仕組みも導入すべきである。

(2)経営について

  • ○現在法人の年間の通常事業規模は60億円を超える段階となっており、また数年後には新施設の開設が予定されているので一層の拡大が予想されている。発展を可能とする資金的な裏づけは収益部門を持たない法人にとって、大きなリスク要因と成り得る。
  • ○事業の経常運営費の収支については、収入に応じた支出として厳密に管理されなければならない。寄付金等の資金は寄付者の意向を十分に忖度し事業の発展、充実に使用され、運営費として使用することには慎重でなければならない。
  • ○その上で法人経営を支える運営調整基金は、各事業本部からの拠出金によって積み上げられ、十分な法人経営資金として確保しておく必要がある。月次経常支出に対して適切な比率を目標に確保しておくべきである。
  • ○老朽施設の更新経費、メンテナンス費用については各事業本部において事業本部資金として適切な金額の積み立てが必要である。
  • ○法人本部、各事業本部、各施設、事業において会計、財務の透明性の確保は極めて重要なコンプライエンスである。

(3)人材の育成について

  • ○福祉事業で質の高いサービスの実現には実際に対人援助に携わるスタッフの充実は基盤である。人材の確保、育成、定着は質の高い福祉サービスを担保する重要な要素である。育成は段階を追ってマニアル化された、客観的な専門職育成システムの構築が必要である。適切な育成システムがあるところに人材の確保、定着が実現する。
  • ○一方で対人援助活動の担い手は、ハンド・トウ・ハンドでその精神と技術を伝えていく人間関係を基盤にした温もりのある、人材育成に意を払う必要がある。
  • ○質の高い福祉サービスは本法人で働くことに、誇りと希望と満足をもつ多くの女性職員集団によって支えられる。その人財が安心して勤務を継続できる支援策の充実が必要である。具体的には育児休業後の職場復帰に対して、法人の資源を利用すると共に、法人独自の支援制度を導入するべきである。
  • ○女性職員だけではなくトータルな人事マネジメントの視点から、本法人の業務に従事する全ての職員の家庭生活が、健全でゆとりのある姿を実現する取り組み「ワーク・ファミリー・バランス」について認識する。
  • ○キャリアパスを成立させるには一定規模の組織がその背景にあることが条件となる。そのためには管理の範囲を1つの施設、あるいは数施設を単位とした閉ざされた運営組織ではなく異動、昇進、昇格が可能となる事業本部全体の中で対応する運営が求められる。
  • ○また法人の幹部職員の他事業本部での研修、また出向等の取り組みは法人の一体感の醸成に効果があり、本法人の特徴である包括性、統合性を組織的に、人材的に担保すると考える。
  • ○キャリアパスには専門職としてのキャリアアップと、組織管理者としてのキャリアパスのふた筋の道があると考えられる。どちらの道を歩んでも最終的には健全な経営階層の育成が目的となる。具体的には施設長であり、法人役員への登用が目標である。
  • ○人材の育成が順調であれば、常に変化し、拡大し、深化していく法人運営を担う新世代の育成につながり、順調な世代交代を可能とする。それが法人の将来を明るいものにしていく可能性の担保である。

(4)地域貢献・公益事業等について

  • ○地域公益事業とは公的給付がなく、社会福祉を目的として地域の抱えるニーズに応えるものである。この財源は内部留保から事業継続に必要な財産・運転資金を差し引いた額を当てるとされている。
  • ○本法人については既に多彩な地域貢献事業を展開しているが、制度外事業の一層の努力と行っている事業の地域への発信、可視化が大切である。
  • ○市民活動としてのボランティア活動支援と、専門職育成の実習支援は社会福祉専門機関としての本法人の地域貢献、公益事業の核となるものである。
  • ○質の高いサービスを支えるのは、経営資源の充実と同時に取り組む福祉活動を客観的に評価検討し、イノベートしていける力である。現在各事業本部に置かれている研究所の法人にとっての位置付けと、役割に注目していきたい。

3、おわりに 

 本計画策定の取り組みは2011年(平成23年)の全職員意識調査からスタートし、2014年度(平成26年)まで足掛け4年にわたる長期に亘る取り組みであった。きっかけは至誠学舎創設100年に当たり、本法人の現状の把握と将来像を明らかにすることにあった。

 この間、至誠学舎立川将来構想検討委員会、3事業本部に置かれた事業本部中長期計画策定委員会、そして法人中・長期基本計画策定委員会と三層の委員会が順次置かれ、本報告書が策定された。また基礎資料として正職員、契約職員を対象とした全数調査を実施し、精密な分析により、本法人の持つ特徴と課題を明らかにした。
 多くの方々のご支援と真剣な論議、努力の成果として本基本計画が策定されたのである。これは正に「至誠の人」づくり、「至誠の将来」の検討であった。

 もとより民間の一社会福祉法人が策定する、10年という期間をスパンとする中長期計画である。そこには時代と制度の変化による変数が多く存在し、具体的な実施計画に結びつかないものや、具体性に疑問が持たれる項目も多数ある未熟なものであることは認識している。その上でもこの計画が本法人の将来の事業を進めていく上で、基本事項として法人を構成する全ての人々の共有財産として、明日の法人の姿をイメージする基礎資料として頂きたい。

 最後に計画策定中に社会では社会福祉法人の制度の見直し議論が活発に行われた。この論議は社会福祉法人の根本に関わる問題を含んでいると認識している。基本は社会福祉法人の公益性と具体的な事業への取り組みということである。その意味では本計画は本法人のこれまでの取り組みと将来の姿を明らかにした、至誠学舎立川としての回答と位置づけられるものだと自負している。
 本計画策定にご協力をいただいた全ての方々に心からの感謝を申し上げたい。

参考資料:「至誠学舎の新しい 出発(たびだち) 法人分割の記録」至誠学舎福祉振興会 平成12年

:「至誠学舎100年の歩み ~いま新たな出発~」 至誠学舎福祉振興会 平成24年11月
:職員意識調査報告書 立教福祉調査研究会代表任賢宰 至誠学舎立川 平成24年3月
:法人将来構想基本計画「新たな世代の羅針盤」至誠学舎立川 平成25年3月

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